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用があって東京に行ってきました。
その合間に「キャタピラー」を鑑賞。
寺島しのぶさん主演の話題作です。ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞したことも耳にした方もおられるでしょう。

今日は別のことを書こうと思っていたし、いただいたコメントにレスすべきなのですが、忘れないうちに映画の感想を書いておこうと思います。(すみません、少々お待ちください)

朝の情報番組かなにかでこの映画のことを知り、公式ブログであらすじをざっと読み、絶対に観ようと思ってました。強烈な反戦映画と紹介もされていますしその通りだと思いますので、老若男女を問わず、誰もが一度は観て欲しいのだけど、残念ながらR15指定です。確かに過激なシーンは多いので仕方ないですけどね。15歳以上になったら是非見て欲しいと思います。
私は特に、女性に見て欲しいと思いました。こういうのを受け付けない方もいらっしゃるかもしれませんが。

この若松監督について、私は一切の知識を持っていなかったのですが、ポルノ系の映画を撮っていた方のようですね。けれど、何か強いメッセージを感じる作品が多かったと、yahooの評価か何かで読みました。
そのyahooの評価で、この映画を①「素人が演じているようなチープさしか感じなかった」、②「反戦というが、ただのエログロ映画だ」、なんて否定的意見も多く見られました。

そんな意見に対する反論というわけではないのですが、感じたままを書いてみたいと思います。
この映画のあらすじをご存知無い方は、リンクを是非開いて読んでみてください。

ここから先はネタバレバレバレですので進みたい方だけどうぞ。
長いです。



黒川家の前に軍用車が止まる。

「黒川少尉を無事、お送りしました」

「少尉の忠烈なる武勲、軍人の鑑であります」

そう言って送り届けられたのは、シゲ子(寺島しのぶ)の夫、四肢と聴覚を失い喉をやられ、焼け爛れた久蔵(大西信満)だった。

国(天皇)から賜った勲章が3つ。
翌日には新聞に大きく取り上げられ、久蔵は「軍神」と祭りあげられていた。

久蔵は、自分が横たわるすぐ側に、その勲章と新聞の切り抜きと天皇陛下ご夫妻のご神影を額縁に入れて、飽かず眺めている。

久蔵が、軍人としてどのような'本来'の職務をしていたのかは描かれていません。
ただ、民間人の住居を焼き払い、中国人女性を追いかけまわし、脅し、乱暴し、辱め、殺す。
誰もが目をそむけたくなる場面(三光作戦)のワンシーンだけが流されます。

気持ちのいい作品では無いと誰もが感じるでしょうけど、女性は特にそうだと思います。
ですから男性の皆さんには、その時の女性の恐怖を、是非とも斟酌しながら観ていただきたいと思います。


願望は声にならず、口の動きのみで妻・シゲ子に訴える久蔵。

「おしっこがしたい」

用を足すとシゲ子のモンペの紐を噛み、別の欲望を訴える。

そう、セックス。四肢を失っても、下半身の一部は元気いっぱいなのだ。

「お国のために献身して戦った(?)軍神を世話するのは、皇国の妻としての立派な勤めですぞ。」

そんな村人からの言葉に、がんじがらめになり献身的な世話をするものの、やがて生理的な欲求しかない目の前の「軍神」に疑問を持つようになる。
ここから、シゲ子の逆襲ともいえる行動が始まる。

出征前は、子供を生めないシゲ子を毎日久三は殴っていました。
女性が男性と同等に見られていなかった時代。
暴力を振るわれ反撃に出ることはおろか、反論も出来なかった時代の女性の姿がそこにある。

やがて、久蔵が「自分が居なければ何も出来ない」ことを知ったシゲ子は、えじこに据えた夫に軍服を着せ、胸に3つの勲章を飾り、リヤカーに乗せて野良仕事に向かう。
久蔵を「軍神様」と拝む村人達の視線は、いつしか献身的に世話をするシゲ子に対する尊敬と同情に変わっていく。

それまでの夫と妻の立場が逆転したことを知ったシゲ子がね、自信に満ちた笑い方をするようになるんですよ。
この表情とか心情を、寺島しのぶさんが「凄い」以外の言葉が出てこないくらい、絶妙に演じているんですね。その変化(立場の逆転)を、妻の表情と態度で感じ取った久蔵は、自分が弱い立場に置かれたことを悟り、それまで全く疑問に思わなかった、中国人女性への暴力、陵辱、挙句の殺人が、悔恨となって幾度も幾度もフラッシュバックするようになります。


その頃からシゲ子は、自分から夫に跨るようになりますが、今度は久蔵が嫌がるようになる。
勃たないのだ。



実はこの場面を一番見て欲しいと思ってます。
映画が生々しいので、その感想を記すにおいて、アタシも生々しさを欠いた表現はやめます。

私は男性ではないので、なぜ勃たなくなる現象が起こるのかは全くわかりませんが、嫌いな女性に対してはそうであろうと推測することは出来ます。
が、けれど、相手は妻です。自分が殴り、常に優位に立っていた対象で、今尚献身的に世話をしてくれる唯一の女性です。この時代、この状況においては、自分にとって唯一の性の対象たる女性なのに、急に勃たなくなるのです。

この場面を男性心理を、男性には久蔵に成り代わって語って、、、いえ、それは矜持にかかわることでしょうから語らずともいいですから、考えて欲しいと思います。
でもまぁ、この場面の寺島しのぶさんの凄みって言ったら。。。(笑)
この表情で、勃たなくなるのは想像に難くない。


さて、先に示したyahooの評価に対する反論を少々。

①「素人が演じているようなチープさしか感じなかった」

私にもそう感じたシーンは確かにありました。それは3箇所。

一つ目は出征する兵隊さんが、村人達に日の丸の小旗を振られながら送り出される場面。二つ目は村の女性達がバケツリレーの練習をしている場面。三つ目は槍を持ってわら人形に突き立てる訓練の場面。

本当に学芸会のような素人っぽさを感じたのですが、私はそれでいいのだと思います。
この出演者さんの役柄は、軍人ではないのだから。
武器など手にしたことのない一般市民が、戸惑いながら訓練している場面なのですから。
バケツリレーもそう。国の絶対命令が地方自治体におりてきたのでしょうけど、いや実に滑稽だと思います。

この映画で陳腐で素人っぽいと言われた場面は、俯瞰してみるに、素人すらも駆り出したその時代そのものが陳腐でチープだったという、若松監督のメッセージと私は受け取ります。

出征を見送られる兵士の場面だって、実際に見送られた兵士は、この日のために練習していたわけではなかろうに。
ガチガチに固まった、素人そのものではなかったのでしょうか。
もっと「上手く演じろ」と言う意見の持ち主は玄人の演技を期待するのでしょうけど、一般市民が徴兵された時代なのです。
その徴兵された兵は軍隊など経験していないのです。
自然豊かな田舎町で起きた馬鹿みたいな壮行会など、それ自体が取って付けた様な素人芝居のようなものではなかったのではないでしょうか?

②「反戦というが、ただのエログロ映画だ」

良心・道徳と共に、エログロも人間こ根幹にあるのではないでしょうか。
それが、戦争によって引き出される。眠っていたものが起こされる。

戦争となれば、人殺しは罪でなくなります。婦女暴行も大した問題にされません。
「南京虐殺などでっちあげだ」などという論調もあります。「死者が20万人などありえない、せいぜい数千人で、中国の脅しに過ぎない」などという論調もあります。

ならば問いたい。
数千人なら殺されてもいいのか?

命は、その人にとってたった一つのもの。
亡くなった命の多寡を言うのではなく、失った一人の命の重さを考え尊重すべき。
それを忘れてしまうのが戦争。
本当のエログロとは、こういうことを言うのではないのでしょうか。


最後に、女の私が観たこの映画の総括を。

最終的に久蔵は入水自殺をしますが、その直前にシゲ子は、知人から終戦を知り、ニッコリと満面の笑みを浮かべます。
この戦争で「軍神」となった夫を、拝み奉らなくていいことを知ったわけです。
その表情に、夫だけではなく、縛られていた得体のしれないモノからの解放の喜びが伝わってきました。
そこは、女性にしかわからないものが潜んでいると思います。
私は若松監督に感謝します。

私は、久蔵が己の罪の悔恨に苦しみながら自殺したことに、全く憐れみは感じませんでした。
それどころか、聖書を読んでいる身でありながら不謹慎にも

「ざまぁ見ろ!」

という気持ちが、全く無かったとは言えません。
「あれは戦争だからしょうがないよ」なんて、戦争を理由に殺人や暴行、言論統制を正当化する気持ちにはなれません。

重ねて、私は若松監督に感謝します。


長くなりましたが、最後まで読んでくださってありがとうございます。

エンドロールで流れていた、この曲が耳を離れません。




★補足★
キャタピラーのパンプレット、千円也。

買う価値ありです。
戦争体験者さんの体験談がいくつか、そして、この戦争時の政治・経済と家庭・生活の変遷の時系列。
多くの論評と共に、台本まるまる、撮影過程が網羅されています。
 

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重いテーマですね・・・
反戦の強いメッセージと迫力は映画を観なくともヒシヒシと伝わってきます。

私は映画を観ていないので、多少ポイントがずれているかもしれませんが、あらすじを読んでいて夫婦の関係にとても興味を持ちました。
この夫婦は、戦争によって人生を翻弄された多くの人達のほんの一例にすぎないのかもしれませんが、人間のいろんな感情を象徴していると思います。

そこで、ぜひとも映画を観たあわび様にお聞きしたい事があります。この夫婦の最後は対称的ですが、二人はタテマエではなく心が通い合うことがあったと思いますか?私は、戦争という不幸が身にふりかかったことで、皮肉にも自分の心の中、そしてその先にある相手の心の中に少しでも入っていけたのかと思いたかったのですが・・・。




ぱーるぴあす 2010/09/19(Sun)18:20:35 編集
Re:重いテーマですね・・・
>ぱーるぴあす様

コメントありがとうございます。

>二人はタテマエではなく心が通い合うことがあったと思いますか?

更なるネタバレになってしまうんですけどね(笑)、解釈の仕方は人それぞれで、私がこれから語るのはあくまでも私の捉え方に過ぎませんので、正誤とは別物としてくださいね。

村人から「軍神様に食べさせてあげて」と当時は貴重な卵を渡される場面があるんです。
それをシゲ子が受け取り、夫の久蔵のところに持っていくと、また久蔵が身体を求めてくるんです。
芋虫みたいな軍神がね。

たまらずシゲ子は貰った生卵を、久蔵に投げつけるんです。「ほら、軍神様、食べなさいよ!ほら、アンタが頂いたんだから!」
もう一つ、またもう一つ、久蔵の顔に押し付けるんです。

その次の日(かな?)、シゲ子が欲望を感じて久蔵に跨ろうとした時、久蔵は全く受け入れられない。
それを知ったシゲ子は、「どうして!どうして!あんなに好きで、毎日毎日、求めてたのに!」「もうアンタなんか怖くないわよ、(久蔵を叩きながら)アンタはよくアタシをこうやって殴ったわよね、子供が生めない石女ってね!こうやって、こうやって!」

そんな激情をぶちまけた2シーンの後それぞれに、シゲ子は我に返り夫に「ごめんね、ごめんね、、、大丈夫だから、大丈夫だから、食べて、寝て、それでいいじゃない、ねぇ、それでいいじゃない」

そう言って、ぎゅっと抱きしめるんです。
暴言と暴力と我侭しかない夫を。
夫婦や恋人が使う、愛とか絆とか、そんな言葉では言い表せない「母性」を感じました。

その深い愛を知ったから、久蔵は自責の念にかられたのだと思います。

疎ましくさえ思っている者を抱きしめて本気の涙を流せる「女(中国人女性もシゲ子も)」を、殴り、犯し、殺した女性に懺悔し、謝罪するためには、足手まといとなった自分が死ぬしかないと思ったのではないかなぁ。
なにより、妻を軍神という幻想から解放するために。

【2010/09/19 20:17】
感想ありがとうごさいま~す。
なんの救いもないものが戦争なのだから、この映画に「愛」などという生易しさを期待するほうがおかしいのだとは思ったのですが、あまりにも内容が重く息苦しすぎて、あたたかなものを探したくなったんですよね。人間的な感情や行動を「お国のため」という洗脳ですべて封じ込められていた時代。戦争も男女差別も個人の考え方云々の問題ではなくすべて国が動かしていたわけで、それによって受けるマイナスの部分はすべて個人に跳ね返ってくる。

久蔵もシゲ子もそして村の人の大半も「軍神」など名ばかりだということを心の中で思う一方、又もう一方で心の拠り所にしていた。そうしないと生きていけなかったのだと思います。想像を絶します。

私達の生きている今、この時代、物や情報は溢れ、生活は便利になったように感じますが、本当の意味で人間の心は自由で豊かになったのでしょうかね。
人間の欲望はつきないですからね・・・。

まとまりのない文章ダラダラとごめんネ~♪




ぱーるぴあす 2010/09/20(Mon)18:39:23 編集
Re:感想ありがとうごさいま~す。
>ぱーるぴあす様

コメントありがとうございます。

シゲ子が久蔵を抱きしめるシーン、哀しいほどの温かさを感じましたよ。
私もそうでしたが、映画館の中ではすすり泣きが洩れていました。
平日の昼間でしたから、観客は多く見積もって30人くらいだったでしょうか。

年配の方が多かったです。上映中、咳払い一つ聞こえなかったのが、これまた別の意味で印象的でしたね。

>この時代、物や情報は溢れ、生活は便利になったように感じますが、本当の意味で人間の心は自由で豊かになったのでしょうかね。

これを私などが語るのはおこがましいのですが、余分なものが氾濫し、大切なものが欠乏してる、、、そんな印象です。それも酷い状態だと思います。
【2010/09/22 00:33】
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