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井伏鱒二さんの「黒い雨」を再読中。
その作品に向かわしめたのは、やはり東電による福島原発事故です。事故による放射線被害を、広島の原爆被害と重ねてしまうのは、何も私だけではないでしょう。
けれど、被爆による苦しみの実態よりも、この作品を一流文学たらしめた、何かを包括し、且つ拡散する描写に心が揺さぶられました。実は、夏目漱石さんの作品にも遠藤周作さんの作品にも匂います。
無力な一人の人間の苦しみや悲しみの外側に、幾重にも巻かれる薄絹の腹帯のようなもの。

私が感じた「薄絹の腹帯」とは、例えばこんなもの。
復興に忙しなく働く人々を急かすことなくゆったりと流れる時間、助け合いながらも時には辛辣なことを言う人々、人造物は破壊され尽くしたけれど眼前にある山々や河川と海の輝き。
元気に走り回る子供達が滑って転ばないようにと、毎日せっせと銀杏の落ち葉を掃くおじいちゃんだったり、一人の娘の結婚話を纏めるために心を痛めたりする地域の人々だったり。
芒種、虫供養のような郷土の慣習や、生活に根付いた子供達の数え歌。窮乏していた当時の食卓事情などを読むと、自分が知らない植物ばかりだったり。

人同士が密着し、それらの人々が自然と密着していた様子が、非常に苦しい時代であり(当時はまるでその影響が分からなかった)放射性物質が降り注ぐ過酷な状況下であったのにもかかわらず、その人と自然の繋がりを、今では羨ましく思いました。
井伏さんの作中の人物は、これがまた皆、謙虚なんです。
現代人、特に都会人には見受けられないんじゃないかと思います。

止まらない鼻血、どんどん無気力になっていく「ぶらぶら病」。

『ひょっとしたら、此処に留まることは良くないのではないか』

そんな不安を抱えながらも広島に留まった人々は、行くところが無い人ばかりではありませんでした。
郷土を愛していたからなのでしょう。
その思いは、「自分は一人で生きている」なんて思い上がった考えを持つ人には分からないでしょうね。

『郷土の大自然の恩寵と、その周りの人々の善意によって生かされている』

そんな感謝の念が、故郷を離れ難くさせたのだと思います。

川上弘美さん、浅田次郎さんと村上春樹さんを除いて、現代文学をほとんど読まなくなってしまったのは、万物への感謝を忘れ、人こそが唯我独尊だと言わんばかりの作品ばかりだから。
史上最強の捕食者である人間は、実は一人では何も出来ない裸の王様ではありませんか。
誰かの手によるモノに寄って生かされているに過ぎません。
「生きているのではなく、生かされている」宗教観を語るわけでなく、ただ普通に誰もが万物に対する感謝の気持ちを少しだけでも持ち続けていたらこんな世の中には成らなかったように思うのです。

もう逝ってしまった優れた文芸家達のメッセージを、正しく感じて受け取らなければ、申し訳なくってありゃしない。。。

imagesCAF20WO5_atae2.jpg










大好きな人形作家、与勇輝さんの作品展が、来週名古屋でも開かれるそうです。
前にもブログで記事にしたけど、上のこの写真、人形なんですよ。バランスを取るための針金なんて入っていなくて、人形自身が一人で立っているんです。

5年ぶりの作品展が来週から開催されるとあって、今からとても楽しみにしています^^
前回、初めて実物の人形を見て堪能はしたけれど、しかしまだ、ただ目の保養のような感覚でした。
懐かしさをソコに見て喜んでいただけのような気がします。

けれど今回の展示会に寄せる与さんのメッセージが、なんだか辺見庸さんのおっしゃる「兆し」を感じ取っていたかのようで、ちょっと見過ごせないです。表現方法は違えども、同じ立ち位置にいらしゃると思いました。

昭和という響きがだんだん遠のいています。日本の歴史の上でも、こんなにも変化の大きな時代はなかったでしょう。
少年時代、空襲警報と共にB29が飛んできた記憶など今も蘇ってきます。やがて街には被災しながらも逞しく生きる子ども達の姿が溢れることになりました。その子達はどのように育ち成長していったのでしょうか。


20100911_1770217.jpg
養母が幼少の頃には、幼い子供も、より小さな弟妹の子守がお仕事でした。
けれど、辛い洗濯や水汲みから開放されて、幼子を負ぶってさえいれば叱られなかったので、遊び呆けるために姉妹では幼子の取り合いだったみたい(笑)。

背負って、耳元で泣き声と息遣いを感じ、兄弟姉妹の情愛を深めていったのだよね。
ちょびっとだけ疎みながらも、背負った重いモノに命を見て、大切にしたんだよね。





images_atae1.jpg
作品の題名は「母さんは?」

火垂るの墓の兄妹のよう。
今にも起き上がってきそうなのに、今にも息絶えそう。。。

これはオブジェのはず、ただの人形のはず。
しかし何が迫ってくるのだろう。

images_atae3.jpg
与さんは、「5年前の展覧会以後、昭和の最も苦しい時代を表現しなければ、今やらなければ、多大な後悔となるだろう」と、今回は先の戦争で被災した時代を表現するため、制作に5年を費やし、昨年の秋から東京・銀座を皮切りに展覧会を始めました。

その間にあの大震災が起こりました。

どんなに心を痛めたことでしょう。
先の戦争を表現している時に、先の戦争と同等の惨禍が襲ったこと。
あれから65年も経っているのに、当時と同じ景色を見ること。。。。


4343_01_atae5.jpg
最近の与さんの作品には、よく可愛らしい妖精(ニンフ)が登場します。
皆、子供の姿で。。。
昭和の香りが漂う子供達は勇ましかったり、健気で無防備な一面を微笑ましく見ることが出来るのだけど、ニンフ達の表情には怯えがあるように思えます。

平和な棲家を追われ、理不尽な仕打ちに怒るよりも、行き場を無くして戸惑う小さなニンフ達。
木の葉で身を守りたい対象は、きっと黒い雨ばかりでは無いんじゃないかな。。。



与 勇輝(あたえ ゆうき)さん、ファーストネームからなぞると、「ユウキ アタエ」。
勇気を与えよ、、、勇気を与える、、、勇気を与えられる、、、

言葉を発することのない人形なんだけれど、きっと独自の言葉を孕んでいるから、こんなに生々しく艶めいているのでしょう。

小さなニンフ達は、きっと人間と共存出来ると思い慕ったから少し過激な悪戯もしたけれど、そんな人間に住処を奪われるとは思っていなかった。
戸惑い、驚き、不安、、、悲しみ。。。

work34.jpg
与さんは絶対原発には反対していると思います。

与さんの子供達(作品)が、そう言っています。





 


★追記★

展覧会の日程を記しておきますね。

○昭和・メモリアル 与勇輝展

2010年 9月16日 ~ 10月4日 東京・銀座  松屋 終了
2011年 3月3日 ~ 3月21日 大阪・難波 高島屋 終了 
  4月20日 ~   5月 9日  神奈川・横浜 高島屋 終了 
  6月10日 ~   6月20日 鹿児島 山形屋 終了 
  7月  9日 ~   8月 7日   愛知・名古屋 松坂屋美術館 開催中 
  8月10日 ~   8月22日 兵庫・神戸 大丸ミュージアム神戸  
  9月 7日 ~    9月26日 京都 高島屋   
10月 6日 ~ 10月17日 栃木・宇都宮 東武百貨店   
10月26日 ~ 11月 7日 北海道・札幌 大丸札幌店  
       
2012年 GW 福岡 大丸福岡天神店   
2013年 1月12日 ~ 1月26日 岡山  高島屋

ご参考まで☆

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無題
こんにちは
元気してますか?

人形・・・いくつかアップで拝見しました。

素晴らしいですね。素直に感動しています。
是非、東京でもやって欲しいなぁ。やっているのに知らないだけ?

>ただ普通に誰もが万物に対する感謝の気持ちを少しだけでも持ち続けていたらこんな世の中には成らなかったように思うのです。

・・・・私自身も含め、人間は、日本人は反省しなければいけませんね。

心地よい記事でした。

ありがとう。
kappa 2011/07/02(Sat)08:22:27 編集
Re:無題
>kappa様

コメントありがとうございます。

こういう個展はだいたい大都会TOKYOが皮切りなんですけどね(笑)。
今年いっぱいは地方で開催されるようですが、また戻ってくるのではないでしょうか。
一見の価値は大いにあると思います。実物の人形を見て、ホントに溜め息が出ましたもん。
しかーし、サッカースタジアム以上に混雑しますから覚悟されたし(笑)。

毎日一度でも、商業的なことではないモノに「ありがとう」って言わなくちゃね。
【2011/07/04 17:56】
古き良き昭和
>昭和という響きがだんだん遠のいています。こんなにも変化の大きな時代はなかったでしょう。

昭和初期まではマキでご飯を炊き、マキで風呂を焚く、
五右衛門風呂もあり洗濯板で洗濯をし、
飲み水は井戸水や湧き水、
灯りはローソクやランプ、鉄道は石炭で動く蒸気機関車、
自転車やリヤカーの時代。
戦後は冷蔵庫、炊飯器、洗濯機、湯沸かし器、テレビも登場し、
お風呂はガスで沸かすようになり、
庶民まで自動車の普及にパソコンに携帯電話そして原子力。

少しエントリーとズレますが、
ご近所の人と話をしましたが、
亡くなった人や引っ越した人もいますが、
昔からいた人達で生活していた時代を懐かしみ、
家の子や○○君が小さい頃の時代「昭和」が良かったし、
あの頃が楽しかったねと話をしました。
魚屋さんが年末に営業が終わってから、
夜に鯛を炭で焼いたりしている所で、
お餅を焼いて食べたりしたり、
夏は道路で車を通れないようにして水浴びをしたり、
お祭りも縁日もみんなで行ったり、
旅行にも行ったりした話をしました。
「引っ越したお年寄りたちもたまに会うと涙を流し、
ここは良かった出来る事なら戻って来たいと必ず言うそうです」

友達もあの頃が良かった出来る事なら戻りたいねと話をします。

昭和から平成になっても変わらないのは昔からある道だけかな。
残念ながら人も建物も変わっていきます。

本当にあの頃に戻りたいです。

叫ぶカラス、砂浜にクジラ…震災前に動物異変
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110702-OYT1T00504.htm

今年も地震前は東北地方でイワシが大漁だったそうです。

1896年 明治三陸沖地震(最大38.2mの大津波発生)
1923年 関東大震災
1933年 三陸沖地震(最大28.7mの大津波発生)
1974年 伊豆半島沖地震(12mの大津波発生)
2011年 東日本大震災(10m以上の大津波発生)
国民! 2011/07/02(Sat)19:07:58 編集
Re:古き良き昭和
>国民!様

コメントありがとうございます。

利便性を追い求めているうちに、なんだか本当に大事なモノを犠牲にしてきたんじゃないかと思ったりしています。
最近は「オール電化」ってキャッチが主流ですが、ずっと以前「セントラルヒーティング」なんて用語があったの覚えてます?あれ、何だったのかな?ガスか電気か。。。
核家族が増えてきた頃だったと思うんですけど。
その頃に新聞の四コマ漫画に、キッチンもリビングもお風呂もホカホカしてるのに、狭い奥座敷で老婆が一人食事をしながらぽつんと「昔は温かだった。」と呟くのがあって、未だに忘れられないんですよね。。。
【2011/07/04 18:10】
無題
わたしもこの人形展、行ってみたいなぁ…

過日、そのデパートに行った記憶があります…
蓬莱軒でしたかね、ずいぶん並んで、美味しい「ひつまぶし」を食べまして、その店があったような…違ったかな?(^^
peace09 2011/07/14(Thu)00:53:48 編集
Re:無題
>peace09様

コメントありがとうございます。

与さんの人形は、豪華な着物やドレスを着てポーズをとる派手な人形ではありません。けれど、なんとも生々しいヒトのミニチュアという感じです。
大袈裟に言ってるつもりではないのですけど、本当に人形達の声が聞こえてくる様なんです。
追記として本文に、展覧会の日程を記しておきました。お近くの都市での開催があれば、是非お運びください。まっこと癒されますよ。

松坂屋の蓬莱軒、当たりです。食事時は常に行列ができております。土用丑が近づいておりますので、これから一層混雑します。
夏場にまた名古屋に来られる機会があって、ひつまぶしをお求めでしたら、ご予約をお薦めします。
熱田神宮近くに本店がありますが、こちらも常に混んでいます。
私には量が多過ぎなのですが、アレは名古屋の(数少ない)誇りです(笑)。



【2011/07/14 22:58】
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